更新日:2014年01月15日
日本の植物といえば、まず名前があがるのが松ではないでしょうか。日本には、五葉松、赤松、黒松など、約10種類の松があります。今回の「あめつち」では、その強い生命力と神様を「まつ」るという意味から、正月飾りとしても奈良時代から愛され続けている松に注目。現代ならではの楽しみ方を探っていきます。
藤井
塩津さんはやっぱり松に思い入れがあるんですか?
塩津
ありますね。盆栽の世界で、365日、毎日手がかけられる植物として重宝されているのもありますが、仕事として最初に手がけた植物が、赤松と楓の苔玉だったんです。ちなみに、盆栽の世界では、松のなかでも五葉松が王様と呼ばれています。初心者でも育てられるし、かといって簡単なだけではなく奥が深いということで、「盆栽は五葉松にはじまり五葉松に終わる」という格言があるくらいです。この特集のメイン写真も五葉松を撮ってもらいました。
藤井
昨年末のミニ門松ワークショップでも使われていた松ですね。門松でも五葉松が人気なんですか?
塩津
人気がありますね。日本人は言葉遊びが好きなので、五葉松=御用(仕事)を待つということで、商売人にとって縁起がいいというのもあるようです。
藤井
なるほど! 盆栽としては、なんでそんなに松は人気があるんでしょう?
塩津
やはり、手を加えられる部分が多いということですね。松は油分をかなり含んでいるので、普通の木だったら折れちゃうような曲げ方をしても、折れずにしなるだけです。だから盆栽で技を競い合えるし、剪定なども含めて、かけようと思えばいくらでも手がかけられます。もしかしたら、育てるともっとも愛着がわく植物かもしれません。
藤井
盆栽以外でも、松はお正月飾りなどで親しみがありますね。松原や松林の美しさを眺める文化もあるし、能を見に行くと必ずといっていいくらいに舞台背景に松が描かれています。松に何か特別なものを日本人は感じているんでしょうね。
塩津
藤井さんは何か松に思い入れはありますか?
藤井
私はコケばっかり見てきたので、特別な思い入れはないんですけど、今回改めて松のことをいろいろと調べてみたんです。そうすると、松には神様をまつる以外にも、その葉のツンツンで悪いものを撃退するということで、魔除けとしても利用されていることがわかりました。特に門に魔除けとして植えられた松は、「門かぶりの松」としてかなりメジャーみたいです。
塩津
節分のひいらぎみたいなものですね。
藤井
そうですそうです。それで、本当かなと思って、自宅の四方100メートルくらいをフィールドワークしてみたんですが、写真を見てもらうとわかるとおり、意外と古い家はみんなやってるんですよ。
塩津
本当だ! でも、こういう日本の文化を思い出していくのって大事ですよね。
藤井
最近の住宅事情ではまず門のある家に住める人が少ないし、廃れてしまったのもしょうがない部分はありますけど、小さな松の盆栽を玄関前に飾って魔除けにするとか、そういう発想をしながら松を楽しめたら素敵ですよね。植物に託されている意味を知っているか知らないかというのは大きいなと思いました。
塩津
昔はいまと違って科学が発展していなかったのもありますね。「植物がこう変化したから季節の変わり目だ」とか、植物が生活をする上での判断材料となることが多く、日常的に植物が意識されていました。いまは科学が発展したのもあって、植物への意識が薄れてきていますが、もったいないような気がします。
藤井
うちは賃貸のマンションなので門かぶりで松は植えられないんですけど、普段も意識することでよその家の松から恩恵を受けようと思います。今年の正月は、特に門松チェックをしようと思っています。
塩津
門松を見に行くなら、都心に出掛けるのがおすすめですよ。東京には工夫を凝らした様々な門松がいくつも見られるので、時間がある方にはぜひ足を運んでほしいです。
藤井
有名な施設などは気合も入っていそうですね。ワークショップのミニ門松を見て思いましたが、松って小さくても本当に存在感がありますね。盆栽の世界で松を人工的に針金とかで曲げるのも、もともとの松が海辺に海風や砂を防ぐために植えられて、曲がりながらも力強く立っている姿の美しさを再現してるからなんですよね?
塩津
まさにそうです。肌が荒れているのもまたかっこいいというのが、日本人の感覚ですね。
藤井
その松の強さにも関係しているんですけど、多くの植物は土中の菌類と繋がりをもっていて、植物と菌類との間で養分の相互補助などを行う「菌根(きんこん)」と呼ばれる共生体を植物の根っこ部分につくります。松は特に根と菌の結びつきが強くて、過酷な環境にも耐えられるみたいです。
塩津
その話でいうと、松は3月か4月に植え替えするのがいいと言われているのですが(時期を考えないと枯れてしまいます)、ある先生が、五葉松に関しては夏に植え替えしてもいいという説をおっしゃっていたのですが、普通に考えると夏は植物の根が傷みすいのでNGです。でも、五葉松の根と結びつく菌は夏にもっとも活性化されるようで、菌が守ってくれるから枯れないというのが理由でした。自分も9月に植え替えして成功していますが、菌の力もすごいですよね。
藤井
本当に。そして、その松の強さを見抜いて海辺に植えた日本人もすごいなと。いまの人が見ても曲がった松が美しいと思うのは、海風や砂から守ってくれているというのはもちろん、過酷な環境に負けないという日本人の美学やソウルが松にあるからなような気がします。
塩津
そうですね。大きなものは無理でも、小さなものならベランダで鉢植えで楽しめますから、ぜひ松も生活に取り入れてみてほしいです。植物への意識が薄れているいまだからこそ、思わぬいいことを松が運んできてくれるかもしれません。
藤井
盆栽で楽しむのもいいですし、フィールドワークで近所の門かぶりの松を楽しむのもいいと思います。先ほど東京の門松が面白いという話が出ましたが、正月休みは門松にも注目したいですね。
あめつち運営チーム