【隠花帝国の旅】1か国目:北の隠花帝国、阿寒の森へ part1

―とにかく阿寒の森はコケもキノコもすごいから。ぜひ一度来てくださいよ―

2012年に都内で行われた新井文彦さん(きのこ・粘菌写真家)の写真展に
初めて行ったときのこと。帰りがけに新井さんは私にそう言った。

それから阿寒行きが叶ったのは、約1年後。2013年のことだ。

ある日スケジュール帳を見たら、9月の終わりから10月初めにかけて
予定のまったくない空白の数日間を発見。

こんなことめったにないし、どこか旅にでも出てみようか。
旅が好きな私は時間ができると、すぐにそのような発想になる。

さて、今回はどこへ。

そう思った時、ふと新井さんが手招きしている顔が浮かんだ。
そうだ、そういえば前に新井さんが阿寒の森はコケがすごいと言ってたな。

思い立ったが吉日とばかりにすぐに新井さんに連絡。
飛行機のチケットを取り、後日、私は釧路へ飛んだ。

 

着いて早々「ザ・北海道」

まずは北海道に不慣れな方に、簡単な位置説明を。

空港のある釧路は北海道の東部、太平洋沿岸にある街だ。
ちょっと乱暴な言い方にはなるが、
北海道のあの菱形っぽい形の右下辺(やや右角寄り)あたりに位置する。

そして同じ釧路市内にある阿寒は、そのまま内陸に向かって北上した先にある。
街はもちろんあのマリモで有名な阿寒湖を有している。
羽田から「たんちょう 釧路空港」までは約1時間半のフライト。意外と近くてびっくりした。

▲空港には〝北海道の鳥〟に指定されているタンチョウヅル(模型)がお出迎え。

▲〝北海道の鳥〟に指定されているタンチョウヅル(模型)が空港でお出迎え

空港には仕事の合間を縫って新井さんが車で迎えに来てくれた。ありがたい。

昼の12時過ぎに着く便だったので「一緒にランチしましょう」と
誘っていただき、早速、新井さん行きつけのラーメン屋へ。

そう、北海道といえばラーメン。
ラーメンフリークでもないくせに、やはり名物には心が躍る。
しかも新井さんはかなりのラーメン好きのようなので期待大だ。

そして行き着いたのは、市街地からかなり外れ、
車もほとんど通らないような道の脇にある一軒のプレハブ小屋。
一見しただけでは何屋かよくわからない。
のれんがかけられて、ようやくラーメン屋だと認識できるレベル。

本当にここに美味しいラーメンがあるのか、新井さん!と
ラーメン素人の心が疑心にまみれているとも知らず、
新井さんは車を店に横付けし、スムーズに店の中へ。私も急いで後を追う。

しかし! 私の疑心なんてこっぱみじんになるほど、
この店のラーメンはヒジョーに美味しゅうございました。

ラーメン素人(私のこと)は「北海道」「ラーメン」と聞くと、
すぐに味噌ラーメンを連想するのだが、
北海道は広しで、実は相当数のご当地ラーメンがあるようだ。

そのなかでも釧路ラーメンは、「鰹出汁をベースに、昆布、煮干しなどの
魚介類、豚骨、鶏ガラなどを合わせすっきりとした醤油ラーメン」
とのこと
(Wikipediaより)。

▲こちらがいただいた醤油ラーメン。

▲こちらがいただいた醤油ラーメン。

目の前にラーメンが出された途端、私たちは
ほとんと会話もなくもくもくとラーメンを食べ(それだけ夢中になる味だった)、
最後に厨房に立つ〝北海道のお母さん〟といった風情の女店主と
少しばかりの会話をし、店を後にする。満腹、満足。

▲のれんの上に「真澄」の看板。もしかしてあのお母さんの名前だったのかしら

▲のれんの上に「真澄」の看板。もしかしてあのお母さんの名前だったのかしら

美味しいラーメンに満たされ、さぁいよいよ目的地の阿寒へ。
車に戻ろうとしたその時、道路の向こうから
なにやら茶色いものがこっちの方に近づいてくるのが見える。

 

▲まさか? 

▲まさか?

 

▲まさか、あの子は!?

▲まさか、あの子は!?

▲出たー!野生のキツネだー!

▲出たー!野生のキツネだー!

― 北海道でキツネと出会ったら、ルールルルルと呼ぶ ―

この瞬間、私は『北の国から』を見た人ならおなじみの
〝北海道あるある〟を思い出し、一瞬口を「る」の形にすぼめかけた。

しかし今この状況を見るに、もはやその必要はないだろう。
相手は警戒心のかけらすら見せず、足取り軽ろやかにこちらに近づいてくるではないか。
こ、これがリアル北海道なのか。

「おそらくまだ子供だから、あまり人を怖がらないんだろうね」と新井さん。

▲もっとも近づいてきたときにルールルルと呼んでみたが、もちろん無視された。

▲もっとも近づいてきたときにルールルルと呼んでみたが、もちろん無視された

 

それから車でしばらく行くと阿寒湖に面する阿寒の温泉街街に到着。
温泉街の一角にあるホテルに宿をとる。

新井さんは夕方まで仕事だということで、私はその間、街探索に出かけることにする。

まずは、土地のことを知るべくエコミュージアムセンターへ。

 

IMG_1503

 

▲ヒグマの剥製

▲ヒグマの剥製

ヒグマは北半球に住むが北海道はその南限だそう。日本最大の陸の哺乳類。
アイヌの人々からは「キムンカムイ(山に住む神)」と呼ばれていた。

 

▲水槽には本物のマリモが

▲水槽には本物のマリモが

マリモは阿寒湖のどこにでもいるのではなく、
実は水深2~3mの湖底で生育条件がそろった
ごく限られた場所にしかいないのだとか。知らなかった!

 

そんなこんなで、タンチョウヅルがお出迎えの釧路空港に始まり、
ラーメン、キツネ、クマ、マリモと、
予想外にも旅の初日早々から「ザ・北海道」を堪能する。

旅のおもしろさってやっぱり、思いもしない嬉しい偶然の連続なのですよね!

 

・・・って、今気づいたが、ここまでで本題の隠花植物が
1度も登場していなかった(かろうじて藻類のマリモ…)。

とはいえけっこう長くなりましたので、続きは次回に!

 

藤井久子

藤井 久子

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「あめつち」は、2012年より開催しているコケの勉強会&ワークショップ「コケトレ──コケと親しむ緑のトレーニング」を発端に誕生しました。

イベントでは、「最適な日当たりは?」「植物はずっと家の中に入れておいてはダメ?」「水やりの仕方は?」「観察に適したルーペは?」「色が変わってきた場合の対処法は?」など、さまざまな質問をいただきました。このような疑問をもっている方は全国にいると思いますが、そういうときにおすすめしたい植物のサイトが見当たらなかったことも、イベントをサイトに発展させようと考えた理由のひとつです。

江戸時代などの歴史資料を見ると、日本人のあいだでは、かつて植物と共生する知恵が共有されていたことがうかがえます。「あめつち」では、"日本の植物世界と日本人の共生"を思い出すことをテーマに、植物と寄り添って暮らしていきたい人に向けて、オリジナルのコンテンツを発信していきます。

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塩津丈洋
塩津 丈洋

植物研究家。塩津丈洋植物研究所代表。緑豊かな和歌山県に生まれ、祖父は農家を営み、幼い頃から植物と身近な環境で育つ。盆栽職人の元で修行後 、2010年、植物の治療・保全を主とした塩津丈洋植物研究所を設立。自然環境問題が深刻化している現在に、改めて植物の存在価値を見つめ直すための活動を行っている。IID世田谷ものづくり学校内「自由大学」教授、名古屋芸術大学OHOC講師。 http://syokubutsukenkyujo.com/

藤井久子
藤井 久子

1978年、兵庫県出身。明治学院大学社会学部卒業。編集ライター。文系ド真ん中の半生ながら幼少期から自然が好きで、いつしかコケに魅了されるようになる。初の著書『コケはともだち』(リトルモア)は異例のベストセラーに。趣味はコケ散策を兼ねた散歩・旅行・山登り。とりわけ好きなコケは、ギンゴケ、タマゴケ、ヒノキゴケ。

鈴木収春
鈴木 収春

クラウドブックス株式会社代表取締役。1979年、東京生まれ。講談社客員編集者を経て、編集業の傍ら2009年より出版エージェント業を開始。2011年は須藤元気『今日が残りの人生最初の日』(講談社)、ドミニック・ローホー『シンプルリスト』(講談社、11万部)等、2012年はタニタ&細川モモ『タニタとつくる美人の習慣』(講談社、7万部)等がヒット。 http://cloudbooks.biz/

藤代 雄一朗

WEB制作会社に勤務。塩津丈洋の「新盆栽学」第一期生。趣味で運営するサイト「泣く子も叫ぶ爆発りんご飴サイト ringo-a.me」「インタビューサイト ボクナリスト」で、WEB制作・スチール撮影・動画撮影・音楽制作などを担当。最近はアーティストのPV撮影なども行なっている。 https://twitter.com/yuichirofuji