【隠花帝国の旅】1か国目:北の隠花帝国、阿寒の森へ part2

<陳謝>

前回から筆を置き過ぎてしまいました、ごめんなさい・・・。

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エコミュージアムセンターをひととおり見終えたあと、
なんとなく呼ばれるように施設の裏手にある遊歩道へ。
それはどうやら阿寒湖に続く道のようだった。

なんの木かわからないがマツの一種と思われる木立の樹幹には、
コケやら地衣やらがところどころについていて、
それらを簡単にチェックしながら道なりに進んでいく。

しばらく行くと、ある地点で森が終わり、辺りが急に明るくなった。

どうやら阿寒湖に出たようだ。

私はそれまでの森の中にはなかった異様な臭いを察知した。
なんだろう、このモワッと生暖かくて卵が腐ったような臭いは。

 

ボッケ現る

臭いの正体は目の前の看板が示すところによると「ボッケ」と呼ばれる泥火山だった。
ボッケとはアイヌ語で「煮え立つ」という意味の言葉であるという。

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柵の向こうを見ると地底から上がってくる硫黄ガスや水蒸気に押されて泥がはじけ、
地面にポコッポコッとあぶくが立つ。なんとなく不気味。さながら「地獄鍋」のようだ・・・。

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なぜこのようなものが阿寒湖のほとりにあるのかといえば、
阿寒湖は火山噴火によってできたカルデラ湖であるからなのだった。

いまも湖の周囲にある「阿寒」と名のつく3つの山、
雄阿寒岳(おあかんだけ)、阿寒富士、雌阿寒岳(めあかんだけ)はいずれも火山で、
さらに雌阿寒岳については、いまも活火山として活動中という。

つまり「阿寒」と呼ばれる地域一帯は火山エリアであったのだ。恥ずかしながら知らなかった・・・。
それこそ湖の南岸では温泉がわき出、街一帯が温泉街となっているのはそういうわけなのである。

 

天然のマリモには会えず・・・

さて、阿寒湖といえばマリモだ。

湖畔まで行けば普通に見られるものだと思っていたが、
これまた無知ゆえの勝手な思い込みであった。

阿寒湖の中でも、マリモに合う環境はきわめて限られており、
さらに生育地は湖畔ではなく、浅めの湖底とのこと。

…というのを後日、マリモWeb(後述)を読んで知ったので、
この時の私は湖畔をしばらく真剣に探し回ってしまった。

▲湖畔にマリモの姿はない。

▲湖畔にマリモの姿はない。

 

▲1921年に天然記念物に指定されたマリモ。しかし時代と共に数が減少し、いまは地元民による保護活動がさかんに行われている

▲1921年に天然記念物に指定されたマリモだが、時代と共に数が減少。いまは地元民による保護活動がさかんに行われている

 

マリモはもともと「シオグサ」という緑藻類の仲間が集まって時間をかけて球状になったもの。
野球ボール大になるのに150~200年近くかかるそうだ。

この看板が言うとおり、丸いだけがマリモじゃない。
丸くなくたって、これから丸くなる可能性もある。
採ったらアカン!ゼッタイ!なのだ。

なお、マリモについては「阿寒湖のマリモ公式ホームページ マリモWeb」の情報が非常に詳しい。
ご興味がある方は、ぜひサイトを読んでみてください。

 

ボッケの恩恵を受けるコケたち

マリモを探していたら湖畔を臨むベストビューに陣取っているハイゴケ群落を発見。
湖ごしにコケとはなんともいい眺め。しばし写真撮影に熱中する。

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そしてふと、触り心地を確かめようとハイゴケに手を当ててみたら驚いた。
コケなのに暖かく、辺りはそこそこ風もあるというのに実にしっとりとした優しい手触り。

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ためしにコケの生えていない地面も触ってみるが、やはり暖かい。

そうか。これは、そばにボッケがあるおかげで
地熱がコケに伝わりこんなに暖かいにちがいない。

余談だが、ハイゴケは、学名(ラテン語)を「Hypnum plumaeforme(ヒプヌム プルマエフォルメ)」といい、
語源は、ギリシア神話の眠りの神ヒュプノス(Hypnos)からきているという。

直立せず地面に寝るように這って生える「這い苔」だからそのような名前がついたのかわからないが、
知り合いのコケ研究者の先生は昔、ハイゴケを長年研究されていた大御所先生が退官されるときに、
このヒュプノスにあやかってハイゴケを詰めた枕をその方にプレゼントしたのだとか。

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できることならば、ほんわか暖かいこのハイゴケを
このまま宿に持ち帰って枕に詰め、私も今夜一緒に眠りたいぐらいだ。

なお、旅を終えて改めて調べてみると、
このボッケ一帯の地面は冬でも雪が積もらないのだという。

湖畔からの水蒸気とボッケからの地熱、冬も雪に埋もれず、
まさしくここはハイゴケにとってパラダイスなのだろう。

▲同じくその近くではウマスギゴケが大群落を形成

▲同じくその近くではウマスギゴケが大群落を形成

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▲湖畔沿いにあった無料の足湯

▲湖畔沿いにあった無料の足湯

▲せっかくなので浸かりました

▲ちろん浸かりました

 

隠花グルメの王様に舌鼓!

夕食時、仕事を終えた新井さんと再び合流し、
新井さん行きつけのアイヌコタン(アイヌ集落)に飲み屋さんへ。

▲アイヌの民芸品がそこかしこに置いてあり、とても素敵な雰囲気

▲アイヌの民芸品がそこかしこに置いてあり、なんだかよい雰囲気の店内

 

自称アイドル好きのマスターはNHK「あまちゃん」の大ファンでもあり、
その時はちょうど流行り病のように蔓延していた「あまロス」に陥っていたところだった。

かくいう私も毎朝欠かさず「あまちゃん」を見ていたクチで、
マスターほど肩を落としていないが、それなりのあまロスだ。

そんなわけで自然とマスターとはあまちゃん話で盛り上がる。
その間、「あまちゃん」をほとんど見ていなかった新井さんは仲間外れ状態に・・・(新井さんごめんなさい)。

マスターは一人で切り盛りし、よくしゃべっているにもかかわらず、
ほどなくして次々と料理がテーブルに並べられた。

▲アイヌ料理「ポッチェイモ」。雪の下で眠っていたジャガイモを発酵させて作るという

▲アイヌ料理「ポッチェイモ」。雪の下で眠っていたジャガイモを発酵させて作るという。素朴で不思議とハマる味

▲牛スジの煮込みならぬ、鹿スジの煮込み。予想に反してまったく臭みがなくお肉も柔らか。 今まで食べた鹿料理の中でいちばん印象に残ったくらい美味でした

▲牛スジの煮込みならぬ、鹿スジの煮込み。予想に反してまったく臭みがなくお肉も柔らか。
今まで食べた鹿料理の中でいちばん印象に残ったくらい美味でした

もちろん海の幸も出てきました

もちろん海の幸も出てきました

 

そしてなんと、なんと、出ました!

秋の味覚の王様「マツタケ」を使った
松茸ご飯&松茸のお吸い物が!

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このマツタケ、実は新井さんが数日前に採ってマスターに差し入れたものだという。

マツタケといえば普通はアカマツのそばに生えることが知られるが、
なんと北海道ではアカエゾマツ、(クロ)エゾマツ、トドマツ、ハイマツなどからも生えてくるのだそうだ。

そういえば私って前回マツタケを食べたのいつだっただろう・・・
頭の中をどうこねくりまわしても思い出せない。
普段からマツタケ様とはものすごく縁遠い人生を送ってきただけに、
ひょいと普通にマスターから差し出されたこの松茸料理には軽いカルチャーショックを受けた。

横の席では「明日行く森はいいですよ~。コケもキノコもいっぱいなんだから」と新井さんがお酒を飲みながらしきりに言う。

マツタケで腹を膨らませ、コケの森に胸を膨らませる。
なんという至福の時間だろう。

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【キノコ時報】

新井文彦さんの最新情報です。

◆東京 2014.3.21(金)
お台場カルチャーカルチャーで行われる「キノコナイト vol.4」に新井さんが出演されます。現在チケット発売中です。

◆大阪 2014.4.3(木)から写真展を開催されます。
・場所:近鉄百貨店上本町店 9階催事場(近鉄大阪線・奈良線 大阪上本町駅下車)
・期間:2014年4月3日(木)~ 4月9日(水)10時 ~ 19時(最終日17時まで)
・問い合わせ:近鉄百貨店上本町店
※5日(土)、6日(日)のみ、全日会場に滞在して、11時、13時、15時、17時には写真解説あり(予定)。
※展示するオリジナルプリント(額装)は販売あり 。

藤井久子

藤井 久子

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「あめつち」は、2012年より開催しているコケの勉強会&ワークショップ「コケトレ──コケと親しむ緑のトレーニング」を発端に誕生しました。

イベントでは、「最適な日当たりは?」「植物はずっと家の中に入れておいてはダメ?」「水やりの仕方は?」「観察に適したルーペは?」「色が変わってきた場合の対処法は?」など、さまざまな質問をいただきました。このような疑問をもっている方は全国にいると思いますが、そういうときにおすすめしたい植物のサイトが見当たらなかったことも、イベントをサイトに発展させようと考えた理由のひとつです。

江戸時代などの歴史資料を見ると、日本人のあいだでは、かつて植物と共生する知恵が共有されていたことがうかがえます。「あめつち」では、"日本の植物世界と日本人の共生"を思い出すことをテーマに、植物と寄り添って暮らしていきたい人に向けて、オリジナルのコンテンツを発信していきます。

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かつての日本人がそうしていたように、「我とそれ」になってしまった植物との関係を「我と汝」に捉え直すサポートをしていくことが、「あめつち」の目指すところです。スタッフ一同もまだまだ植物の世界を研究中ですが、4人で始めたサイトがどこまで根をのばしていくか、見守っていただけると嬉しいです。

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塩津丈洋
塩津 丈洋

植物研究家。塩津丈洋植物研究所代表。緑豊かな和歌山県に生まれ、祖父は農家を営み、幼い頃から植物と身近な環境で育つ。盆栽職人の元で修行後 、2010年、植物の治療・保全を主とした塩津丈洋植物研究所を設立。自然環境問題が深刻化している現在に、改めて植物の存在価値を見つめ直すための活動を行っている。IID世田谷ものづくり学校内「自由大学」教授、名古屋芸術大学OHOC講師。 http://syokubutsukenkyujo.com/

藤井久子
藤井 久子

1978年、兵庫県出身。明治学院大学社会学部卒業。編集ライター。文系ド真ん中の半生ながら幼少期から自然が好きで、いつしかコケに魅了されるようになる。初の著書『コケはともだち』(リトルモア)は異例のベストセラーに。趣味はコケ散策を兼ねた散歩・旅行・山登り。とりわけ好きなコケは、ギンゴケ、タマゴケ、ヒノキゴケ。

鈴木収春
鈴木 収春

クラウドブックス株式会社代表取締役。1979年、東京生まれ。講談社客員編集者を経て、編集業の傍ら2009年より出版エージェント業を開始。2011年は須藤元気『今日が残りの人生最初の日』(講談社)、ドミニック・ローホー『シンプルリスト』(講談社、11万部)等、2012年はタニタ&細川モモ『タニタとつくる美人の習慣』(講談社、7万部)等がヒット。 http://cloudbooks.biz/

藤代 雄一朗

WEB制作会社に勤務。塩津丈洋の「新盆栽学」第一期生。趣味で運営するサイト「泣く子も叫ぶ爆発りんご飴サイト ringo-a.me」「インタビューサイト ボクナリスト」で、WEB制作・スチール撮影・動画撮影・音楽制作などを担当。最近はアーティストのPV撮影なども行なっている。 https://twitter.com/yuichirofuji