花で人とつながっている──広尾「F52」チーフバイヤー・今井斉さんインタビュー【4/4】

取材:塩津丈洋、藤井久子、鈴木収春
写真:塩津丈洋
文:鈴木収春

前回のインタビューはこちらから。

誰がつくったんだろうと思う、すごい花がある

──大手花屋を辞めて、いよいよ「F52」の設立ですね。

今井

「会社を辞めます」とFの社長に伝えると、「辞めてどうするんだ」と訊かれました。「生産者のプロモーションをしたい」と言ったのですが、うまく伝えることができませんでした。社長には正論で「生産者は毎年減っていて苦しい状況なのは知っているだろう。その状況の中で、生産者がお前にお金を払ってプロモーションをお願いすると思うか?」と言われてしまいました。素直に、「思いません」と答えましたが、ともかく会社は辞めてしまいました。

──今井さんが生産者のPRをしたいと思ったのは、なにが一番のきっかけだったんですか?

今井

市場で花を見ていると、ゴゴゴゴゴって訴えかけてくる花があるんですよ。誰がつくってるんだろうと思うくらい、他と違う花があるんです。そういう花を見つけると、仲卸に無理を言って生産者を教えてもらったり、自分でこっそり調べたりして、その人に会いに行っていました。ある意味変態ですよね。

それで会って話をすると、やっぱりなと思うんですよ。育て方やこだわりや想いとかが全然違うんです。この人はすごいと思ったら、翌年世界的な賞を獲得されたこともありました。

──花も手をかけてあげると、すごい能力を発揮するんですね。

今井

そうなんです。例えば、ギッツパーフェクションというダリアがあるんですが、普通のギッツパーフェクションと、斎藤勝彦さん(山形県庄内みどり)のギッツパーフェクションは別物です。誰が見ても、これは違うというのがわかります。

すごい花をつくる方は、なにより魅力的な人が多い。でも、彼らが都会に来て花の魅力を直接語ることは、花を育てなくてはいけないので、現実問題できません。だったら、自分が生き残れるところはそれなんじゃないかと気がつきました。

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▲斎藤勝彦さんのギッツパーフェクション(F52フェイスブックページより)。こぶし2つ分くらいの大きさとグラデーションが圧巻。

旬とつくり手の想いを伝える花屋

今井

それで、ずっとその方法を考え続けて、「旬とつくり手の想いを伝える花屋」で生産者のプロモーションをしていこうと決めました。誰がつくっているかわかる花を仕入れて、その魅力を伝えていくのが大事だなと。

「F52」は、1年を通してこだわりの生産者がつくった旬の花を提案していくというのがコンセプトです。品数で勝負していないので、初めて見た方はびっくりするかもしれません。

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▲次回インタビューに登場。横山直樹さん(横山園芸)のダイヤモンドリリー。

──設立して、反応はどうでしたか?

今井

「F52」は花の物流会社とタッグを組んで、全国の生産者から産地直送で花を仕入れています。まず、業界の反応なんですが、やはり障害はありましたね。花は通常、市場を通して流通していくものなので、叩かれてしまいました。すごく小さな売り上げ規模なので、気にしていただいて光栄というか、ありがたいくらいなんですが。

一番怖いのは、生産者にご迷惑をかけることです。「産直もやるなら、あなたの花は市場で扱わない」という話になるのは絶対避けなくてはなりません。それを最初に確認したら、みなさん異口同音に「そんなことにはならないから大丈夫だよ」と言ってくれました。

──みなさん、今井さんだから花を渡したいと思っているんですね。

今井

ありがたいですよね。なぜ市場を通さないことにこだわったかというと、ひとつは花の鮮度です。花屋に出回る花というのは、例えば月曜のセリに出される花だと、生産者は木か金に花を切って送るので、3~4日間くらい経ってしまっています。市場を通さなければ、昨日切った花を今日並べることができます。

あと、市場の相場に左右されないということもあります。カーネーションの相場の変動の話をしましたけど、生産者にとっても適正利益が出る価格で安定していたほうがいいに決まっています。この金額なら生産者もお客さんも無理がないというラインがわかっているので、いわゆる三方良しの状態がつくり出せると思いました。

高いと言われるかもしれないけど、自信がある

──お客さんの反応はどうでしたか?

今井

いまは広尾でやらせていただいてるんですが、感度の高い街なので、いい反響がありますね。値段で選ばないというか、適正な価格だとわかってくれる方がちゃんといるんです。その他、お客さんが広尾の店を気に入って、田園調布のコーヒーショップでも花を置いてほしいと言ってくれて、実際に花を置かせてもらうようになるなどの動きも起こっています。

うちの店で扱う花のよさをわかっていただいて、広めてくれる方も出てきて、このままいい流れで広がっていってくれたらと思います。

僕自身がもともと花に興味がなかったんですが、それを変えてしまう力が花にはあります。花があることによって、気持よく生活ができるというのは自分自身も実感していることなので、ぜひみなさんには一輪でもいいから旬の花を飾っていただきたいですね。

──最後に、今井さんにとって花ってどんな存在ですか?

今井

僕にとって花は人とのつながりです。実際、花に生産者の顔が浮かぶんですよ。店でお客さんに「あの花すごくよかったよ」って言われたら、すぐ生産者に電話かけちゃいますからね。「伝わった」と感動する瞬間です。これを読まれた方もぜひ一度、店を見にきていただけたら嬉しいです。

今井さんと2/1(土)行ったワークショップ、大好評でした! 次回は春開催予定です!

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プロフィール

今井斉(いまい・ひとし)
1979年、北海道生まれ。腰痛で野球が続けられなくなったのを機に、花好きの両親の影響で花屋を志す。花の企画会社、繁華街向けの花屋を経て、大手個人向け花屋に転職。年間4億円以上を売り上げる渋谷の某店舗の店長などを経験する。退職後、2013年3月、培ってきたネットワークを生かし、こだわりの生産者が育てた旬の花のみを扱う花屋「F52」を設立。生産者のPRを兼ねた異色の花屋として話題を呼んでいる。
http://www.f52.jp/

広尾「F52」Flower curator 52 weeks
〒150-0012
東京都渋谷区広尾5-17-3 グラスタワー1F「arobo」前

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鈴木収春

鈴木 収春

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「あめつち」は、2012年より開催しているコケの勉強会&ワークショップ「コケトレ──コケと親しむ緑のトレーニング」を発端に誕生しました。

イベントでは、「最適な日当たりは?」「植物はずっと家の中に入れておいてはダメ?」「水やりの仕方は?」「観察に適したルーペは?」「色が変わってきた場合の対処法は?」など、さまざまな質問をいただきました。このような疑問をもっている方は全国にいると思いますが、そういうときにおすすめしたい植物のサイトが見当たらなかったことも、イベントをサイトに発展させようと考えた理由のひとつです。

江戸時代などの歴史資料を見ると、日本人のあいだでは、かつて植物と共生する知恵が共有されていたことがうかがえます。「あめつち」では、"日本の植物世界と日本人の共生"を思い出すことをテーマに、植物と寄り添って暮らしていきたい人に向けて、オリジナルのコンテンツを発信していきます。

【具体的に発信していくコンテンツ】
●植物に寄り添う、真摯に向き合う人たちを紹介します。
●園芸技術だけでなく、鑑賞(かしこまったものだけではなく、通りすがりに眺める木なども含めて)や歳時記の楽しみ方など、植物に気づく、寄り添う暮らし全般を紹介します。
●植物の本来の姿、好ましい育て方を紹介します。穴の空いていない植木鉢など、人の都合だけに合わせたノウハウを見直していきます。
●隠花植物など、あまり注目されていない植物群にもスポットをあて、植物の面白さや多様性を紹介します。

オーストリア出身の哲学者マルティン・ブーバーは、自分以外をモノのように捉えることを、「我とそれ」の関係と呼びました。疎外感を生む「我とそれ」の関係ではなく、相手を自分と同格に捉えて対話していく「我と汝」の関係こそが世界を拓く。それがブーバーの哲学です。

かつての日本人がそうしていたように、「我とそれ」になってしまった植物との関係を「我と汝」に捉え直すサポートをしていくことが、「あめつち」の目指すところです。スタッフ一同もまだまだ植物の世界を研究中ですが、4人で始めたサイトがどこまで根をのばしていくか、見守っていただけると嬉しいです。

「あめつち」運営スタッフ一同

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塩津丈洋
塩津 丈洋

植物研究家。塩津丈洋植物研究所代表。緑豊かな和歌山県に生まれ、祖父は農家を営み、幼い頃から植物と身近な環境で育つ。盆栽職人の元で修行後 、2010年、植物の治療・保全を主とした塩津丈洋植物研究所を設立。自然環境問題が深刻化している現在に、改めて植物の存在価値を見つめ直すための活動を行っている。IID世田谷ものづくり学校内「自由大学」教授、名古屋芸術大学OHOC講師。 http://syokubutsukenkyujo.com/

藤井久子
藤井 久子

1978年、兵庫県出身。明治学院大学社会学部卒業。編集ライター。文系ド真ん中の半生ながら幼少期から自然が好きで、いつしかコケに魅了されるようになる。初の著書『コケはともだち』(リトルモア)は異例のベストセラーに。趣味はコケ散策を兼ねた散歩・旅行・山登り。とりわけ好きなコケは、ギンゴケ、タマゴケ、ヒノキゴケ。

鈴木収春
鈴木 収春

クラウドブックス株式会社代表取締役。1979年、東京生まれ。講談社客員編集者を経て、編集業の傍ら2009年より出版エージェント業を開始。2011年は須藤元気『今日が残りの人生最初の日』(講談社)、ドミニック・ローホー『シンプルリスト』(講談社、11万部)等、2012年はタニタ&細川モモ『タニタとつくる美人の習慣』(講談社、7万部)等がヒット。 http://cloudbooks.biz/

藤代 雄一朗

WEB制作会社に勤務。塩津丈洋の「新盆栽学」第一期生。趣味で運営するサイト「泣く子も叫ぶ爆発りんご飴サイト ringo-a.me」「インタビューサイト ボクナリスト」で、WEB制作・スチール撮影・動画撮影・音楽制作などを担当。最近はアーティストのPV撮影なども行なっている。 https://twitter.com/yuichirofuji