更新日:2014年02月09日
取材:塩津丈洋、藤井久子、鈴木収春
写真:塩津丈洋
文:鈴木収春
──大手花屋を辞めて、いよいよ「F52」の設立ですね。
今井
「会社を辞めます」とFの社長に伝えると、「辞めてどうするんだ」と訊かれました。「生産者のプロモーションをしたい」と言ったのですが、うまく伝えることができませんでした。社長には正論で「生産者は毎年減っていて苦しい状況なのは知っているだろう。その状況の中で、生産者がお前にお金を払ってプロモーションをお願いすると思うか?」と言われてしまいました。素直に、「思いません」と答えましたが、ともかく会社は辞めてしまいました。
──今井さんが生産者のPRをしたいと思ったのは、なにが一番のきっかけだったんですか?
今井
市場で花を見ていると、ゴゴゴゴゴって訴えかけてくる花があるんですよ。誰がつくってるんだろうと思うくらい、他と違う花があるんです。そういう花を見つけると、仲卸に無理を言って生産者を教えてもらったり、自分でこっそり調べたりして、その人に会いに行っていました。ある意味変態ですよね。
それで会って話をすると、やっぱりなと思うんですよ。育て方やこだわりや想いとかが全然違うんです。この人はすごいと思ったら、翌年世界的な賞を獲得されたこともありました。
──花も手をかけてあげると、すごい能力を発揮するんですね。
今井
そうなんです。例えば、ギッツパーフェクションというダリアがあるんですが、普通のギッツパーフェクションと、斎藤勝彦さん(山形県庄内みどり)のギッツパーフェクションは別物です。誰が見ても、これは違うというのがわかります。
すごい花をつくる方は、なにより魅力的な人が多い。でも、彼らが都会に来て花の魅力を直接語ることは、花を育てなくてはいけないので、現実問題できません。だったら、自分が生き残れるところはそれなんじゃないかと気がつきました。
▲斎藤勝彦さんのギッツパーフェクション(F52フェイスブックページより)。こぶし2つ分くらいの大きさとグラデーションが圧巻。
今井
それで、ずっとその方法を考え続けて、「旬とつくり手の想いを伝える花屋」で生産者のプロモーションをしていこうと決めました。誰がつくっているかわかる花を仕入れて、その魅力を伝えていくのが大事だなと。
「F52」は、1年を通してこだわりの生産者がつくった旬の花を提案していくというのがコンセプトです。品数で勝負していないので、初めて見た方はびっくりするかもしれません。
▲次回インタビューに登場。横山直樹さん(横山園芸)のダイヤモンドリリー。
──設立して、反応はどうでしたか?
今井
「F52」は花の物流会社とタッグを組んで、全国の生産者から産地直送で花を仕入れています。まず、業界の反応なんですが、やはり障害はありましたね。花は通常、市場を通して流通していくものなので、叩かれてしまいました。すごく小さな売り上げ規模なので、気にしていただいて光栄というか、ありがたいくらいなんですが。
一番怖いのは、生産者にご迷惑をかけることです。「産直もやるなら、あなたの花は市場で扱わない」という話になるのは絶対避けなくてはなりません。それを最初に確認したら、みなさん異口同音に「そんなことにはならないから大丈夫だよ」と言ってくれました。
──みなさん、今井さんだから花を渡したいと思っているんですね。
今井
ありがたいですよね。なぜ市場を通さないことにこだわったかというと、ひとつは花の鮮度です。花屋に出回る花というのは、例えば月曜のセリに出される花だと、生産者は木か金に花を切って送るので、3~4日間くらい経ってしまっています。市場を通さなければ、昨日切った花を今日並べることができます。
あと、市場の相場に左右されないということもあります。カーネーションの相場の変動の話をしましたけど、生産者にとっても適正利益が出る価格で安定していたほうがいいに決まっています。この金額なら生産者もお客さんも無理がないというラインがわかっているので、いわゆる三方良しの状態がつくり出せると思いました。
──お客さんの反応はどうでしたか?
今井
いまは広尾でやらせていただいてるんですが、感度の高い街なので、いい反響がありますね。値段で選ばないというか、適正な価格だとわかってくれる方がちゃんといるんです。その他、お客さんが広尾の店を気に入って、田園調布のコーヒーショップでも花を置いてほしいと言ってくれて、実際に花を置かせてもらうようになるなどの動きも起こっています。
うちの店で扱う花のよさをわかっていただいて、広めてくれる方も出てきて、このままいい流れで広がっていってくれたらと思います。
僕自身がもともと花に興味がなかったんですが、それを変えてしまう力が花にはあります。花があることによって、気持よく生活ができるというのは自分自身も実感していることなので、ぜひみなさんには一輪でもいいから旬の花を飾っていただきたいですね。
──最後に、今井さんにとって花ってどんな存在ですか?
今井
僕にとって花は人とのつながりです。実際、花に生産者の顔が浮かぶんですよ。店でお客さんに「あの花すごくよかったよ」って言われたら、すぐ生産者に電話かけちゃいますからね。「伝わった」と感動する瞬間です。これを読まれた方もぜひ一度、店を見にきていただけたら嬉しいです。
■今井さんと2/1(土)行ったワークショップ、大好評でした! 次回は春開催予定です!
今井斉(いまい・ひとし)
1979年、北海道生まれ。腰痛で野球が続けられなくなったのを機に、花好きの両親の影響で花屋を志す。花の企画会社、繁華街向けの花屋を経て、大手個人向け花屋に転職。年間4億円以上を売り上げる渋谷の某店舗の店長などを経験する。退職後、2013年3月、培ってきたネットワークを生かし、こだわりの生産者が育てた旬の花のみを扱う花屋「F52」を設立。生産者のPRを兼ねた異色の花屋として話題を呼んでいる。
http://www.f52.jp/
広尾「F52」Flower curator 52 weeks
〒150-0012
東京都渋谷区広尾5-17-3 グラスタワー1F「arobo」前
鈴木 収春