更新日:2014年02月16日
取材:塩津丈洋、藤井久子、鈴木収春
写真:塩津丈洋
文:鈴木収春
前回登場の広尾「F52」の今井斉さんから、「ぜひこの方を取材したほうがいい」とご紹介いただいたのが、クリスマスローズ、ダイヤモンドリリー、原種シクラメンの育種家&生産者として世界的に有名な「横山園芸」2代目・横山直樹さん。花屋に勤めていても、(市場から仕入れるので)ほとんど行く機会がないという花の生産地。東京都清瀬市の横山園芸にお邪魔して、お話をうかがいました。
──横山園芸の成り立ちはどのようなものなのでしょうか?
横山
もともと横山家は、武蔵野開拓六家と呼ばれる、武蔵野を開拓した農耕民族のうちのひとつだったんです。代々土地を耕していて、昔は野菜農家だったのですが、じいちゃんのじいちゃんのじいちゃんくらいの代のときは染物屋をやっていました。藍を育てて染めていたんですね。それで儲かって土地を広げたり、失敗して土地を失ったりしながら、親父の代で花の生産を始めたんです。
──業種は変わっても、植物を育てるという意味では同じですね。
横山
そうですね。親父も始めた頃は花が好きというだけで、何を育てていいのかよくわからなくて、偶然近所に住んでいた大手種苗会社の方の運転手をしながら全国を回って勉強して、言われたままに植物を育てていました。その中で、琴線に触れたクリスマスローズやダイヤモンドリリーなどを育て始めたんです。中国からウンナンシュロチクを仕入れるなど、輸入もしていましたね。
──最初から家業を継ごうと思っていたのですか?
横山
幼稚園や小学校のとき、親父がつくって余った花なんかを持って行くと、先生や父兄の方がすごく喜んでくれて、自分も自然と花が好きになりました。僕は原点に人に喜んでもらえることがしたいというのがあるんですよね。だから、固く決意するというまでではなかったですが、継ぐ気はありました。
でも、高校を出たら千葉大学の園芸学科に行って、園芸のエリートになる予定が、受験で落ちてしまうんですね。どうしようかと思った時に、2年間イギリスに行くことにしたんです。園芸大国イギリスで学ぶというのは親父の夢だったので、僕が代わりに果たしたかたちになりました。
横山
いまは園芸というと市場としても大きいオランダなどが中心に見えるかもしれませんが、イギリスは園芸の歴史が一番古く、標本や歴史的な資料が豊富に揃っています。植物は原点が自生地にあるので必ずそこに立ち戻るなど、育種家としての姿勢も学びましたし、世界中から園芸を学びに人が集まってくるので、世界中に友だちができました。南アフリカにダイヤモンドリリーを見に行こうと思ったら、現地の友だちに連絡すれば案内してくれますし、培ったネットワークはいまでも生きています。
そのイギリスで、僕を園芸の世界にしっかりとつなぎとめてくれた、大きな出来事がありました。それは、数十年生きているシクラメンを見たことです。
──シクラメンって数十年も生きるんですか?
横山
そうなんです。僕も初めは信じられませんでした。逆にショックを受けたくらいでした。シクラメンって一般的には、誰が育てても1年で死んでしまう、いい方は悪いですが使い捨て植物のような見られ方をされていると思うんです。
でも、イギリスで何十年も生きているシクラメンに出会って、例えば、この子も僕と同じ35、6年生きているシクラメンなんですが、こんな華奢な子がなんでこんなに生きられるんだろうって思ったんですよ。そのギャップに興味を持ち、惚れ込んでしまいました。
横山
寒さにも暑さにも強くて、木でもないのに球根で長生きすることに衝撃を受けて、日本でもやってやろうと決めたんです。ちなみに、文献の記録によると150年生きたシクラメンも存在します。
横山園芸はクリスマスローズとダイヤモンドリリーが有名なんですが、シクラメンもずっとやっていきたい植物のひとつで、ウチのロゴはシクラメンがモチーフになっています。イギリスに本部がある野生のシクラメン協会にも入っていて、いまは日本支部の代表になりました。なんだかお金にならないことばかりやってますね。
横山直樹(よこやま・なおき)
横山園芸2代目。1978年生まれ。イギリスでの研修を経て、父親が立ち上げた横山園芸にて、ダイヤモンドリリー、クリスマスローズ、原種シクラメンの育種・生産を手がける。NHK「趣味の園芸」講師をはじめ、メディアでも活躍中。
http://homepage3.nifty.com/cyclamen/
鈴木 収春