更新日:2014年02月24日
取材:塩津丈洋、藤井久子、鈴木収春
写真:塩津丈洋
文:鈴木収春
横山さんに最初に案内してもらったのは、野生のクリスマスローズを日本の環境に慣れさせている現場でした。たくさんのポットがきれいに整理されて並んでいます。
余談ですが、クリスマスローズの名前の由来を。昔、クリスマスに教会に行く少女が、何も教会に持っていくものがなくて途方に暮れていたところ、ある場所で雪が解け、そこにこの花が咲いていて、摘んで持っていったというドイツの伝説から、クリスマスローズと呼ばれているそうです。クリスマスに咲くわけでもなく、薔薇でもないので不思議だったのですが、横山さんのお話で謎が解けました。
──この子たちは日本で出回っているクリスマスローズとは違うんですか?
横山
日本で出回っているクリスマスローズは、ほとんどがヨーロッパで育種されたものを導入して増やしたものです。日本で新しい種を生み出そうとしている僕とかは、いわば後発部隊。後発部隊がどういうスパイスを加えたらオリジナルなものをつくれるかと考えたときに、野生のもの、つまり原点に立ち返ってもう一度可能性を考えるのが重要だと思ったんです。
まだいまは葉っぱだけのものが多いですけど、僕とかはこの状態を眺めるのも、花が咲いたところが想像できるのでかなり好きですね。相当特殊だと思いますけど(笑)。
次に見せてもらったのが、別々の品種を交配させたクリスマスローズを育てている現場。横山さんが考えた独自の暗号が各ポットに書かれています。
──年間どのくらいの数を交配させているのですか?
横山
クリスマスローズだけで年間数百くらいですね。これはタネができたものの数なので、交配させたもののタネができなかったケースも含めると、もっと交配させていることもあります。
ここは品種改良した答えを見ていく現場なんですが、独自の暗号で掛け合わせがわかるようになっています。例えば、Dがダブル咲き(花びらが放射状に広がって咲く八重咲きの状態)とか、「かたち」「模様」「色」の順番で記号が記載されています。本当は全部名前を付けてあげたいのですが忘れちゃうんです(苦笑)。
──その中で、だいたいどれくらいが新種の候補として残るのでしょうか?
横山
これだと思って残すのは、年間50~70株くらいです。ひと交配あたり10株つくるとすると、年間5,000~7,000株を咲かせるわけですから、だいたい1%くらいの確率ですね。
雑種がうまくできたというのが、種の段階で選別できるものや発芽して双葉になった段階で選別できるものもありますが、基本的には毎日しっかり様子を見ながら選別していきます。
──相当根気のいる作業ですね。
横山
それだけではないんです。雑種は特に初期生育といって、育つのがすごく遅いので、種を撒いてから5年でようやく花が咲くようなイメージです。4年待ってまだ咲かないのかと思っていたら、次の年咲いて「よかった!」みたいな。とにかく植物のペースに合わせて気長に待っていないといけません。
品種改良に10年以上かかることなんて普通なので、一般の仕事とは、かなり時間の流れが違いますよね。僕にはそのペースがあっているんですけど、2代目、3代目と代替わりしながらやるくらいじゃないと、取り組める仕事ではないとも言えます。
横山直樹(よこやま・なおき)
横山園芸2代目。1978年生まれ。イギリスでの研修を経て、父親が立ち上げた横山園芸にて、ダイヤモンドリリー、クリスマスローズ、原種シクラメンの育種・生産を手がける。NHK「趣味の園芸」講師をはじめ、メディアでも活躍中。
http://homepage3.nifty.com/cyclamen/
鈴木 収春