いつか南アフリカでダイヤモンドリリーを産業にしてもらいたい──東京都清瀬市「横山園芸」2代目・横山直樹さんインタビュー【4/4】

取材:塩津丈洋、藤井久子、鈴木収春
写真:塩津丈洋
文:鈴木収春

前回のインタビューはこちらから。

次はダイヤモンドリリーの生産現場へ。花びらの表面が、まるでラメを塗っているかのようにキラキラとダイヤモンドのように輝くこの花は、日本の彼岸花の仲間。南アフリカ原産で、花持ちが非常に良いこと(2週間以上きれいに咲く)と、かすかなカカオの香りが特徴です。

環境がいいと咲かない岩場の花

──姿形が彼岸花っぽいとは思っていましたが、ダイヤモンドリリーはやはり彼岸花の仲間なんですね。

横山

彼岸花が東洋人なら、こちらは南アフリカ人ですね。僕は立ち姿を遠くから眺めるのも面白いから好きです。それで、近づいたら輝きがあると。

──例えばですが、日本で曼珠沙華(彼岸花)の代わりに庭に植えたら、ちゃんと育って花が咲くものなのでしょうか。

横山

それは難しいですね。まずこの花はやや寒さに弱いのと、夏の湿気で腐ることがあるので、庭では育てられないんです。さらに言うと、軒下などに植えると生育はするんですけど、花が咲かなくなっちゃうんですよ。ダイヤモンドリリーはもともと岩場に咲く花なので、地面に植えると環境がよすぎて、種を残すために花を咲かそうと思わずに、葉っぱばかり出てきてしまいます。逆に鉢に植えるなどして、ベランダに置いてポットで育てるのは可能ですよ。

──ベランダにダイヤモンドリリーってすごくいいですね。

横山

水を毎日やらなくても生きていけるし、夏は枯れちゃって球根だけになるので暑さにも強いですから。関西ではけっこう認知度が上がってきていて、シクラメンもそうですけど過酷な環境のベランダに向くということで人気が出てきているように思えます。そうそう、先ほど35、6年生きているシクラメンを見てもらいましたが、こちらのダイヤモンドリリーも同い年です。

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──これは! すごいことになっていますね。

横山

球根の基部と呼ばれるところから子どもを生んで、親が上に押し出されるかたちで増えていくのですが、水とちょっとした液肥だけでここまで育ったんです。一番古い親の球根も、5、6年前までは花を咲かせていました。まるで盆栽のように長く付き合って楽しい、育てる喜びや大切さ、重みが感じられますよね。

人との距離を縮めてくれる輝き

──ダイヤモンドリリーは、歴史的にはどのようにして出回り始めたのでしょうか?

横山

最初は大航海時代にプラントハンターが南アフリカからイギリスに持ち込んで、品種改良が始まりました。ただ、あまりにも花がきれいだったので、ほとんどヨーロッパ人が持って帰ってしまって、現地にほとんど残っていないんですよ。

──根こそぎ持って行かれてしまったんですね。

横山

あるにはあるんですけど、一番強くて増えやすい、彼岸花に近い色のものしか残っていなくて、現地の人もいまはダイヤモンドリリーの存在を知らないくらいです。ウチの目標というか夢は、南アフリカの人たちにこの花のよさをわかってもらって、現地で産業にしてもらうことなんです。

現地の人って、それがあるのが当たり前なので、よさに気がつかないことがよくあると思うんです。日本だと百合なんかが典型例で、ヨーロッパで品種改良されて、派手なカサブランカになったら日本でも広く受け入れられました。ギボウシなんかもそうですね。どちらかというと園芸では日本はやられっぱなしなんです。

ダイヤモンドリリーは1年に球根から1本しか花が咲かない植物ですから、生産性が悪くさすがにオランダなども手を出してこないみたいで、世界中を探しても本気で育てている人が減っているようです。それに伴い、古い品種なども失われつつあります。

我が家は売れない花でもとりあえず品種の維持をしています。なんだか携帯電話みたいにウチはガラパゴス化しているのでは!? なんて思ってしまうこともありますが、いつか現地の自然に返したい。そして現地での産業になることを夢見てこのダイヤモンドリリーと付き合っているんです。

──ぜひ実現してほしいです! 横山さんは、ダイヤモンドリリーのどこに一番惹かれますか?

横山

人と人との距離を縮めてくれる花というところですね。僕は人としゃべるのが好きなんですけど、話をしていても、なかなか1.5m以内の距離感になることってないじゃないですか。でも、「この花ってキラキラしているんですよ」というと、簡単にその壁がなくなって、距離を縮めてくれる不思議な魔力を持っている花だと思うんです。

こういう話も伝えていけたら、ダイヤモンドリリーももっと注目されるかもしれません。

小さな個が生産者を支えていく

──ダイヤモンドリリーってすごくきれいですけど、クリスマスローズみたいに出回っている花なんですか?

横山

そんなでもないですね。悲しい運命なんですけど、バブルのときに花も市場がどんどん大きくなって、大量生産大量消費で、売れる花だけを種苗会社も生産者も花屋も扱うようになったんです。

通年出荷できる王道の花ばかり注目され売れていき、僕がつくっているようなレアな花は、おまけのように最後に売られる感じでした。例えばダイヤモンドリリーは出荷の期間が2ヵ月しかないので、長期的な宣伝も打つことができません。価格はどん底まで落ち出荷するだけ赤字になってしまうこともあり、ダイヤモンドリリーの生産をやめようとも考えたんですが、やっぱり「そんなんじゃおかしいだろ!」と思ったんですね。

季節に合わせて姿をものすごく大きく変える生き物って、植物くらいじゃないですか。花見で桜をあんなに愛でるわけですから、日本人の心にはやっぱり花を愛でる心があるはずだと。

みなさんが季節を感じることで、僕らの花の世界は存在していると思うんです。それを忘れさせてしまったのが、花業界の大量生産大量消費かもしれません。産業の中では当たり前の構造だけど、やっぱり季節を感じて花を愛でることを忘れたくないし、忘れてほしくないと思いました。

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横山

それで僕は、大きなところを相手にするのではなく、小さな個を対象にして、売り込むようにしたんです。個性的なちょっと変わった人ですね。最初は小さな本当のクチコミですよね。生で会ってコミュニケーションしていく。そうしたら、仲間が増えるとともに少しずつ広がってきてくれました。

だから、僕の花を売ってくれる方には、できれば一度生産の現場を見てもらいたいと思っています。特にダイヤモンドリリーは1本数百円~500円する切り花なので、1年に球根ひとつにつき1本しか咲かないとか、何年かに1回植え替えもしないといけないとか、ケアしてあげないと花が咲かないとかを伝えていかないと、価値をわかってもらえないですよね。ただ物の価値だけでなく、想いまでを理解して伝えてくれる、そんな仲間に支えられダイヤモンドリリーもやっと軌道に乗ってきました。

──すごくいい流れだと思います!

横山

厳しい環境ですけど、こういう花が好きな人がいると信じて、いいものをつくり続けていきたいですね。クリスマスローズ、ダイヤモンドリリー、シクラメンは、僕自身に気づきを与えてくれて、また僕を人間的に成長させてくれた植物たちです。恩返しをするつもりで、ずっと続けていきたいと思っています。

プロフィール

横山直樹(よこやま・なおき)
横山園芸2代目。1978年生まれ。イギリスでの研修を経て、父親が立ち上げた横山園芸にて、ダイヤモンドリリー、クリスマスローズ、原種シクラメンの育種・生産を手がける。NHK「趣味の園芸」講師をはじめ、メディアでも活躍中。
http://homepage3.nifty.com/cyclamen/

鈴木収春

鈴木 収春

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「あめつち」は、2012年より開催しているコケの勉強会&ワークショップ「コケトレ──コケと親しむ緑のトレーニング」を発端に誕生しました。

イベントでは、「最適な日当たりは?」「植物はずっと家の中に入れておいてはダメ?」「水やりの仕方は?」「観察に適したルーペは?」「色が変わってきた場合の対処法は?」など、さまざまな質問をいただきました。このような疑問をもっている方は全国にいると思いますが、そういうときにおすすめしたい植物のサイトが見当たらなかったことも、イベントをサイトに発展させようと考えた理由のひとつです。

江戸時代などの歴史資料を見ると、日本人のあいだでは、かつて植物と共生する知恵が共有されていたことがうかがえます。「あめつち」では、"日本の植物世界と日本人の共生"を思い出すことをテーマに、植物と寄り添って暮らしていきたい人に向けて、オリジナルのコンテンツを発信していきます。

【具体的に発信していくコンテンツ】
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●園芸技術だけでなく、鑑賞(かしこまったものだけではなく、通りすがりに眺める木なども含めて)や歳時記の楽しみ方など、植物に気づく、寄り添う暮らし全般を紹介します。
●植物の本来の姿、好ましい育て方を紹介します。穴の空いていない植木鉢など、人の都合だけに合わせたノウハウを見直していきます。
●隠花植物など、あまり注目されていない植物群にもスポットをあて、植物の面白さや多様性を紹介します。

オーストリア出身の哲学者マルティン・ブーバーは、自分以外をモノのように捉えることを、「我とそれ」の関係と呼びました。疎外感を生む「我とそれ」の関係ではなく、相手を自分と同格に捉えて対話していく「我と汝」の関係こそが世界を拓く。それがブーバーの哲学です。

かつての日本人がそうしていたように、「我とそれ」になってしまった植物との関係を「我と汝」に捉え直すサポートをしていくことが、「あめつち」の目指すところです。スタッフ一同もまだまだ植物の世界を研究中ですが、4人で始めたサイトがどこまで根をのばしていくか、見守っていただけると嬉しいです。

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塩津丈洋
塩津 丈洋

植物研究家。塩津丈洋植物研究所代表。緑豊かな和歌山県に生まれ、祖父は農家を営み、幼い頃から植物と身近な環境で育つ。盆栽職人の元で修行後 、2010年、植物の治療・保全を主とした塩津丈洋植物研究所を設立。自然環境問題が深刻化している現在に、改めて植物の存在価値を見つめ直すための活動を行っている。IID世田谷ものづくり学校内「自由大学」教授、名古屋芸術大学OHOC講師。 http://syokubutsukenkyujo.com/

藤井久子
藤井 久子

1978年、兵庫県出身。明治学院大学社会学部卒業。編集ライター。文系ド真ん中の半生ながら幼少期から自然が好きで、いつしかコケに魅了されるようになる。初の著書『コケはともだち』(リトルモア)は異例のベストセラーに。趣味はコケ散策を兼ねた散歩・旅行・山登り。とりわけ好きなコケは、ギンゴケ、タマゴケ、ヒノキゴケ。

鈴木収春
鈴木 収春

クラウドブックス株式会社代表取締役。1979年、東京生まれ。講談社客員編集者を経て、編集業の傍ら2009年より出版エージェント業を開始。2011年は須藤元気『今日が残りの人生最初の日』(講談社)、ドミニック・ローホー『シンプルリスト』(講談社、11万部)等、2012年はタニタ&細川モモ『タニタとつくる美人の習慣』(講談社、7万部)等がヒット。 http://cloudbooks.biz/

藤代 雄一朗

WEB制作会社に勤務。塩津丈洋の「新盆栽学」第一期生。趣味で運営するサイト「泣く子も叫ぶ爆発りんご飴サイト ringo-a.me」「インタビューサイト ボクナリスト」で、WEB制作・スチール撮影・動画撮影・音楽制作などを担当。最近はアーティストのPV撮影なども行なっている。 https://twitter.com/yuichirofuji