更新日:2014年03月07日
取材:塩津丈洋、藤井久子、鈴木収春
写真:塩津丈洋
文:鈴木収春
さらに移動して、今度はクリスマスローズの親株たちが集まっているハウスへ。同じクリスマスローズでも葉っぱのかたちが全然違うので、一見すると同じ植物には見えません。
──すごい数の親株が集まっていますね。
横山
ここでクリスマスローズの交配を行っています。少し育種家のビジネス的な話をすると、遠縁のものを掛けあわせて成功しても、雑種不稔性といって、その子からは種ができなくなって、自然には増やせない場合があるんです。
──そういう場合はどうするのですか?
横山
そういう場合は、種苗会社に権利を渡して、培養で増やしてもらいます。例えば、僕がつくったものだとエリック・スミスという、早く成長する、強くて育てやすいクリスマスローズがあります。種苗会社がアメリカやヨーロッパで毎年50万鉢くらい販売していますが、ロイヤリティがウチに入ってくる仕組みになっています。こっちのスノーホワイトという品種もそうですね。
──白雪姫ですね。
横山
真っ白できれいなんですよ。これも僕が初めて交配に成功したもので、一般に流通しているクリスマスローズと、野生のニゲルという品種を交配したものなんですが、遠縁すぎて誰も交配できなかったんです。
──なぜ横山さんは誰もできなかった交配に成功できたんですか?
横山
根性でやったという部分もありますが、神様がプレゼントしてくれたような偶然の産物といった方がいいかもしれません。ずっとやり続けていたらたまたまできてしまいました(笑)。
──横山さんが交配をするときに目指している方向性みたいなものはありますか?
横山
外国で人気があるのは大きいタイプのものが多いんですけど、僕が目指しているのは、日本の住環境にあった、葉っぱも手のひらサイズで収まる、小さいけど花がたくさん咲くタイプの品種です。日本だと、スペース的に置きたくても置けないケースが多いじゃないですか。
実は、それが実現できたのがこのプチドールなんです。最初の交配に成功して、もう少し小ぶりにしたいからまた交配して、色が違うものも欲しいからまた種を撒いて……と繰り返していたら、12、3年経っていました。
クリスマスローズは花がうつむいて咲くのが特徴なんですが、横向きくらいがいいとか、葉っぱもゴツゴツしているよりもフワッとしているほうがいいとか、いろんな希望が実現できたので、種苗会社と一緒に名前を考えて、商標登録もしました。イメージキャラクターも大好きな漫画家さんにアタックして描いてもらったんです。
横山
まだ出始めなので流通路が少ないんですが(編注:横山さんが交配して、それを生産者や種苗会社に流通させていくというステップを踏むため)、今後どんどん広まってくれると嬉しいです。
人と同じことをやるのが好きじゃないので、新しいものをつくるのは楽しいですね。でも、自己満足で終わらないように、例えば今日も来てくれている今井さんとか仲間にも来てもらって、「やっぱりこの子いいよね」みたいに、共感してもらえるかどうかも大切にしています。
横山直樹(よこやま・なおき)
横山園芸2代目。1978年生まれ。イギリスでの研修を経て、父親が立ち上げた横山園芸にて、ダイヤモンドリリー、クリスマスローズ、原種シクラメンの育種・生産を手がける。NHK「趣味の園芸」講師をはじめ、メディアでも活躍中。
http://homepage3.nifty.com/cyclamen/
鈴木 収春