日本の住環境で楽しめる品種をつくっていきたい──東京都清瀬市「横山園芸」2代目・横山直樹さんインタビュー【3/4】

取材:塩津丈洋、藤井久子、鈴木収春
写真:塩津丈洋
文:鈴木収春

前回のインタビューはこちらから。

さらに移動して、今度はクリスマスローズの親株たちが集まっているハウスへ。同じクリスマスローズでも葉っぱのかたちが全然違うので、一見すると同じ植物には見えません。

育種家とロイヤリティ

──すごい数の親株が集まっていますね。

横山

ここでクリスマスローズの交配を行っています。少し育種家のビジネス的な話をすると、遠縁のものを掛けあわせて成功しても、雑種不稔性といって、その子からは種ができなくなって、自然には増やせない場合があるんです。

──そういう場合はどうするのですか?

横山

そういう場合は、種苗会社に権利を渡して、培養で増やしてもらいます。例えば、僕がつくったものだとエリック・スミスという、早く成長する、強くて育てやすいクリスマスローズがあります。種苗会社がアメリカやヨーロッパで毎年50万鉢くらい販売していますが、ロイヤリティがウチに入ってくる仕組みになっています。こっちのスノーホワイトという品種もそうですね。

──白雪姫ですね。

横山

真っ白できれいなんですよ。これも僕が初めて交配に成功したもので、一般に流通しているクリスマスローズと、野生のニゲルという品種を交配したものなんですが、遠縁すぎて誰も交配できなかったんです。

──なぜ横山さんは誰もできなかった交配に成功できたんですか?

横山

根性でやったという部分もありますが、神様がプレゼントしてくれたような偶然の産物といった方がいいかもしれません。ずっとやり続けていたらたまたまできてしまいました(笑)。

日本の環境に合わせた「プチドール」

──横山さんが交配をするときに目指している方向性みたいなものはありますか?

横山

外国で人気があるのは大きいタイプのものが多いんですけど、僕が目指しているのは、日本の住環境にあった、葉っぱも手のひらサイズで収まる、小さいけど花がたくさん咲くタイプの品種です。日本だと、スペース的に置きたくても置けないケースが多いじゃないですか。

実は、それが実現できたのがこのプチドールなんです。最初の交配に成功して、もう少し小ぶりにしたいからまた交配して、色が違うものも欲しいからまた種を撒いて……と繰り返していたら、12、3年経っていました。

クリスマスローズは花がうつむいて咲くのが特徴なんですが、横向きくらいがいいとか、葉っぱもゴツゴツしているよりもフワッとしているほうがいいとか、いろんな希望が実現できたので、種苗会社と一緒に名前を考えて、商標登録もしました。イメージキャラクターも大好きな漫画家さんにアタックして描いてもらったんです。

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横山

まだ出始めなので流通路が少ないんですが(編注:横山さんが交配して、それを生産者や種苗会社に流通させていくというステップを踏むため)、今後どんどん広まってくれると嬉しいです。

人と同じことをやるのが好きじゃないので、新しいものをつくるのは楽しいですね。でも、自己満足で終わらないように、例えば今日も来てくれている今井さんとか仲間にも来てもらって、「やっぱりこの子いいよね」みたいに、共感してもらえるかどうかも大切にしています。

<次回に続く!>

プロフィール

横山直樹(よこやま・なおき)
横山園芸2代目。1978年生まれ。イギリスでの研修を経て、父親が立ち上げた横山園芸にて、ダイヤモンドリリー、クリスマスローズ、原種シクラメンの育種・生産を手がける。NHK「趣味の園芸」講師をはじめ、メディアでも活躍中。
http://homepage3.nifty.com/cyclamen/

鈴木収春

鈴木 収春

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「あめつち」は、2012年より開催しているコケの勉強会&ワークショップ「コケトレ──コケと親しむ緑のトレーニング」を発端に誕生しました。

イベントでは、「最適な日当たりは?」「植物はずっと家の中に入れておいてはダメ?」「水やりの仕方は?」「観察に適したルーペは?」「色が変わってきた場合の対処法は?」など、さまざまな質問をいただきました。このような疑問をもっている方は全国にいると思いますが、そういうときにおすすめしたい植物のサイトが見当たらなかったことも、イベントをサイトに発展させようと考えた理由のひとつです。

江戸時代などの歴史資料を見ると、日本人のあいだでは、かつて植物と共生する知恵が共有されていたことがうかがえます。「あめつち」では、"日本の植物世界と日本人の共生"を思い出すことをテーマに、植物と寄り添って暮らしていきたい人に向けて、オリジナルのコンテンツを発信していきます。

【具体的に発信していくコンテンツ】
●植物に寄り添う、真摯に向き合う人たちを紹介します。
●園芸技術だけでなく、鑑賞(かしこまったものだけではなく、通りすがりに眺める木なども含めて)や歳時記の楽しみ方など、植物に気づく、寄り添う暮らし全般を紹介します。
●植物の本来の姿、好ましい育て方を紹介します。穴の空いていない植木鉢など、人の都合だけに合わせたノウハウを見直していきます。
●隠花植物など、あまり注目されていない植物群にもスポットをあて、植物の面白さや多様性を紹介します。

オーストリア出身の哲学者マルティン・ブーバーは、自分以外をモノのように捉えることを、「我とそれ」の関係と呼びました。疎外感を生む「我とそれ」の関係ではなく、相手を自分と同格に捉えて対話していく「我と汝」の関係こそが世界を拓く。それがブーバーの哲学です。

かつての日本人がそうしていたように、「我とそれ」になってしまった植物との関係を「我と汝」に捉え直すサポートをしていくことが、「あめつち」の目指すところです。スタッフ一同もまだまだ植物の世界を研究中ですが、4人で始めたサイトがどこまで根をのばしていくか、見守っていただけると嬉しいです。

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塩津丈洋
塩津 丈洋

植物研究家。塩津丈洋植物研究所代表。緑豊かな和歌山県に生まれ、祖父は農家を営み、幼い頃から植物と身近な環境で育つ。盆栽職人の元で修行後 、2010年、植物の治療・保全を主とした塩津丈洋植物研究所を設立。自然環境問題が深刻化している現在に、改めて植物の存在価値を見つめ直すための活動を行っている。IID世田谷ものづくり学校内「自由大学」教授、名古屋芸術大学OHOC講師。 http://syokubutsukenkyujo.com/

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藤井 久子

1978年、兵庫県出身。明治学院大学社会学部卒業。編集ライター。文系ド真ん中の半生ながら幼少期から自然が好きで、いつしかコケに魅了されるようになる。初の著書『コケはともだち』(リトルモア)は異例のベストセラーに。趣味はコケ散策を兼ねた散歩・旅行・山登り。とりわけ好きなコケは、ギンゴケ、タマゴケ、ヒノキゴケ。

鈴木収春
鈴木 収春

クラウドブックス株式会社代表取締役。1979年、東京生まれ。講談社客員編集者を経て、編集業の傍ら2009年より出版エージェント業を開始。2011年は須藤元気『今日が残りの人生最初の日』(講談社)、ドミニック・ローホー『シンプルリスト』(講談社、11万部)等、2012年はタニタ&細川モモ『タニタとつくる美人の習慣』(講談社、7万部)等がヒット。 http://cloudbooks.biz/

藤代 雄一朗

WEB制作会社に勤務。塩津丈洋の「新盆栽学」第一期生。趣味で運営するサイト「泣く子も叫ぶ爆発りんご飴サイト ringo-a.me」「インタビューサイト ボクナリスト」で、WEB制作・スチール撮影・動画撮影・音楽制作などを担当。最近はアーティストのPV撮影なども行なっている。 https://twitter.com/yuichirofuji