クチコミで広がった宅配による販売──神奈川県寒川町「大谷芍薬園」大谷光昭さんインタビュー【3/3】

取材:塩津丈洋、鈴木収春
写真:海老原隆(最上部写真も)
取材協力:今井斉、今井彩(広尾「F52」)
文:鈴木収春

前回のインタビューはこちらから。

アクセントとしての洋種芍薬

──光昭さんが跡を継いでから、先代と大きく変わった部分はありますか?

大谷

基本的には変わりませんが、ひとつは、洋種を出荷するようになったことでしょうか。うちの芍薬の株をわけてあげた方が、「洋種の芍薬を仕入れたので大谷さんでもやってみないか」と持ってきてくれて、親父の代から育ててはいたんです。

ポーラフェイやダイアナ、エッジドサーモンなど5品種ですね。でも、和の芍薬と違って洋種はすんなりとまっすぐ伸びるものが少なく、市場に出荷しづらかったのでそのままにしてありました。

でも、私の代になってから株の植え替えをしてみたらよく咲くし、宅配で送る芍薬の束のなかに洋種を1本入れると、ぐっと映えることがあるんです。評判もいいので、エッジドサーモンなんかは少し生産の割合を増やしていますね。あと変わったことは、これまでも話題に出ている、宅配を始めたことです。

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▲撮影:海老原隆

価値ある花を適正な価格で

──宅配(通販)を始めたきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

大谷

5年前に息子が不慮の事故で亡くなったのですが、建築士をやっていて、仕事の合間に芍薬も手伝ってもらっていました。

生産者の悩みの大きなひとつに、市場価格が安定しないことがあります。丹精込めて芍薬をつくって市場に持って行っても、いくらで売れるかはわからない。いい価格で買ってもらえることもありますが、他の産地からも芍薬がたくさん入ってくれば、1本20円とか30円とか、がっかりする価格になってしまうこともあるんです。

芍薬の価値にふさわしい、適正な値段でいつも買ってくれる先も探そうと、息子が考えたのがお客さんに直接芍薬を届ける宅配でした。やり始めた矢先に亡くなってしまったのだけど、義娘の美和さんが引き継いでくれたんです。

そうしたら、瞬く間にお客さんからの反応がクチコミで増えて、いまではシーズンで700箱から800箱が売れるようになりました(編注:1箱15本入りなので、約1万本から1万2000本!)。

いまは宅配が6、市場が3、直売他が1という割合で、売値をあまり心配せずに、芍薬づくりに専念できるようになりました。息子や美和さんがいてくれなかったら、いまでも悩みながら市場中心でやっていたんじゃないかと思います。

(編集:「F52」の今井夫妻によると、先進的な生産者の方でも、市場7:宅配3が目標だそうです。その割合でもほとんどの方が実現できておらず、業界でも異例の数字とのこと)

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▲撮影:海老原隆

初夏を彩る芍薬の魅力

──ウェブサイトを拝見いたしましたが、写真もすごくきれいで、これは人気になるはずだと思いました。あめつち一同も、初夏に「大谷芍薬園」の芍薬を飾るのが楽しみです! 最後に、読者の方にメッセージをお願いいたします。

大谷

芍薬は、つぼみは小さいけれども咲くと豪華というか非常に大輪で、まだ芍薬を買ったことがないという方は、そのギャップに驚かれるかもしれませんね。つぼみから花が満開になり、散るという花の変化を見るのもおもしろいと思います。

色の深さはもちろん、咲き方も「一重咲き」「八重咲き」「翁咲き」などバラエティが豊かなので、ぜひ何本か一緒に楽しんでみてください。

<了>

プロフィール

大谷光昭(おおたに・みつあき)
1940年生まれ。1963年、国立東京教育大学農学部農学科卒業後、神奈川県農業試験場(旧・農事試験場、現・農業総合研究所)に勤務。神奈川県庁農政部への複数回の異動を経て、2001年、農業総合研究所退職。「大谷芍薬園」を継ぎ、現在に至る。
http://otani-farm.net/

購入インフォメーション

「大谷芍薬園」の芍薬は、広尾「F52」にて今年は5月2日(金)より購入できます(場所は下記を参照)。また、「大谷芍薬園」のウェブから宅配での購入も可能です(15本4000円~)。芍薬のシーズンは3週間。今年から初夏は芍薬を楽しんでみてはいかがでしょうか。

■広尾「F52」
渋谷区広尾5-17-3 広尾aroboテラス前(日比谷線広尾駅徒歩3分)
営業時間:11時~20時
TEL:03-5534-2713
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鈴木収春

鈴木 収春

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「あめつち」は、2012年より開催しているコケの勉強会&ワークショップ「コケトレ──コケと親しむ緑のトレーニング」を発端に誕生しました。

イベントでは、「最適な日当たりは?」「植物はずっと家の中に入れておいてはダメ?」「水やりの仕方は?」「観察に適したルーペは?」「色が変わってきた場合の対処法は?」など、さまざまな質問をいただきました。このような疑問をもっている方は全国にいると思いますが、そういうときにおすすめしたい植物のサイトが見当たらなかったことも、イベントをサイトに発展させようと考えた理由のひとつです。

江戸時代などの歴史資料を見ると、日本人のあいだでは、かつて植物と共生する知恵が共有されていたことがうかがえます。「あめつち」では、"日本の植物世界と日本人の共生"を思い出すことをテーマに、植物と寄り添って暮らしていきたい人に向けて、オリジナルのコンテンツを発信していきます。

【具体的に発信していくコンテンツ】
●植物に寄り添う、真摯に向き合う人たちを紹介します。
●園芸技術だけでなく、鑑賞(かしこまったものだけではなく、通りすがりに眺める木なども含めて)や歳時記の楽しみ方など、植物に気づく、寄り添う暮らし全般を紹介します。
●植物の本来の姿、好ましい育て方を紹介します。穴の空いていない植木鉢など、人の都合だけに合わせたノウハウを見直していきます。
●隠花植物など、あまり注目されていない植物群にもスポットをあて、植物の面白さや多様性を紹介します。

オーストリア出身の哲学者マルティン・ブーバーは、自分以外をモノのように捉えることを、「我とそれ」の関係と呼びました。疎外感を生む「我とそれ」の関係ではなく、相手を自分と同格に捉えて対話していく「我と汝」の関係こそが世界を拓く。それがブーバーの哲学です。

かつての日本人がそうしていたように、「我とそれ」になってしまった植物との関係を「我と汝」に捉え直すサポートをしていくことが、「あめつち」の目指すところです。スタッフ一同もまだまだ植物の世界を研究中ですが、4人で始めたサイトがどこまで根をのばしていくか、見守っていただけると嬉しいです。

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塩津丈洋
塩津 丈洋

植物研究家。塩津丈洋植物研究所代表。緑豊かな和歌山県に生まれ、祖父は農家を営み、幼い頃から植物と身近な環境で育つ。盆栽職人の元で修行後 、2010年、植物の治療・保全を主とした塩津丈洋植物研究所を設立。自然環境問題が深刻化している現在に、改めて植物の存在価値を見つめ直すための活動を行っている。IID世田谷ものづくり学校内「自由大学」教授、名古屋芸術大学OHOC講師。 http://syokubutsukenkyujo.com/

藤井久子
藤井 久子

1978年、兵庫県出身。明治学院大学社会学部卒業。編集ライター。文系ド真ん中の半生ながら幼少期から自然が好きで、いつしかコケに魅了されるようになる。初の著書『コケはともだち』(リトルモア)は異例のベストセラーに。趣味はコケ散策を兼ねた散歩・旅行・山登り。とりわけ好きなコケは、ギンゴケ、タマゴケ、ヒノキゴケ。

鈴木収春
鈴木 収春

クラウドブックス株式会社代表取締役。1979年、東京生まれ。講談社客員編集者を経て、編集業の傍ら2009年より出版エージェント業を開始。2011年は須藤元気『今日が残りの人生最初の日』(講談社)、ドミニック・ローホー『シンプルリスト』(講談社、11万部)等、2012年はタニタ&細川モモ『タニタとつくる美人の習慣』(講談社、7万部)等がヒット。 http://cloudbooks.biz/

藤代 雄一朗

WEB制作会社に勤務。塩津丈洋の「新盆栽学」第一期生。趣味で運営するサイト「泣く子も叫ぶ爆発りんご飴サイト ringo-a.me」「インタビューサイト ボクナリスト」で、WEB制作・スチール撮影・動画撮影・音楽制作などを担当。最近はアーティストのPV撮影なども行なっている。 https://twitter.com/yuichirofuji