更新日:2014年05月16日
取材:塩津丈洋、鈴木収春
写真:海老原隆(最上部写真も)
取材協力:今井斉、今井彩(広尾「F52」)
文:鈴木収春
──光昭さんが跡を継いでから、先代と大きく変わった部分はありますか?
大谷
基本的には変わりませんが、ひとつは、洋種を出荷するようになったことでしょうか。うちの芍薬の株をわけてあげた方が、「洋種の芍薬を仕入れたので大谷さんでもやってみないか」と持ってきてくれて、親父の代から育ててはいたんです。
ポーラフェイやダイアナ、エッジドサーモンなど5品種ですね。でも、和の芍薬と違って洋種はすんなりとまっすぐ伸びるものが少なく、市場に出荷しづらかったのでそのままにしてありました。
でも、私の代になってから株の植え替えをしてみたらよく咲くし、宅配で送る芍薬の束のなかに洋種を1本入れると、ぐっと映えることがあるんです。評判もいいので、エッジドサーモンなんかは少し生産の割合を増やしていますね。あと変わったことは、これまでも話題に出ている、宅配を始めたことです。
──宅配(通販)を始めたきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
大谷
5年前に息子が不慮の事故で亡くなったのですが、建築士をやっていて、仕事の合間に芍薬も手伝ってもらっていました。
生産者の悩みの大きなひとつに、市場価格が安定しないことがあります。丹精込めて芍薬をつくって市場に持って行っても、いくらで売れるかはわからない。いい価格で買ってもらえることもありますが、他の産地からも芍薬がたくさん入ってくれば、1本20円とか30円とか、がっかりする価格になってしまうこともあるんです。
芍薬の価値にふさわしい、適正な値段でいつも買ってくれる先も探そうと、息子が考えたのがお客さんに直接芍薬を届ける宅配でした。やり始めた矢先に亡くなってしまったのだけど、義娘の美和さんが引き継いでくれたんです。
そうしたら、瞬く間にお客さんからの反応がクチコミで増えて、いまではシーズンで700箱から800箱が売れるようになりました(編注:1箱15本入りなので、約1万本から1万2000本!)。
いまは宅配が6、市場が3、直売他が1という割合で、売値をあまり心配せずに、芍薬づくりに専念できるようになりました。息子や美和さんがいてくれなかったら、いまでも悩みながら市場中心でやっていたんじゃないかと思います。
(編集:「F52」の今井夫妻によると、先進的な生産者の方でも、市場7:宅配3が目標だそうです。その割合でもほとんどの方が実現できておらず、業界でも異例の数字とのこと)
──ウェブサイトを拝見いたしましたが、写真もすごくきれいで、これは人気になるはずだと思いました。あめつち一同も、初夏に「大谷芍薬園」の芍薬を飾るのが楽しみです! 最後に、読者の方にメッセージをお願いいたします。
大谷
芍薬は、つぼみは小さいけれども咲くと豪華というか非常に大輪で、まだ芍薬を買ったことがないという方は、そのギャップに驚かれるかもしれませんね。つぼみから花が満開になり、散るという花の変化を見るのもおもしろいと思います。
色の深さはもちろん、咲き方も「一重咲き」「八重咲き」「翁咲き」などバラエティが豊かなので、ぜひ何本か一緒に楽しんでみてください。
<了>
大谷光昭(おおたに・みつあき)
1940年生まれ。1963年、国立東京教育大学農学部農学科卒業後、神奈川県農業試験場(旧・農事試験場、現・農業総合研究所)に勤務。神奈川県庁農政部への複数回の異動を経て、2001年、農業総合研究所退職。「大谷芍薬園」を継ぎ、現在に至る。
http://otani-farm.net/
「大谷芍薬園」の芍薬は、広尾「F52」にて今年は5月2日(金)より購入できます(場所は下記を参照)。また、「大谷芍薬園」のウェブから宅配での購入も可能です(15本4000円~)。芍薬のシーズンは3週間。今年から初夏は芍薬を楽しんでみてはいかがでしょうか。
■広尾「F52」
渋谷区広尾5-17-3 広尾aroboテラス前(日比谷線広尾駅徒歩3分)
営業時間:11時~20時
TEL:03-5534-2713
鈴木 収春