更新日:2014年05月09日
取材:塩津丈洋、鈴木収春
写真:海老原隆(最上部写真も)
取材協力:今井斉、今井彩(広尾「F52」)
文:鈴木収春
──「大谷さんの芍薬で、初めて芍薬の香りに気がついた」「大谷さんの芍薬は全部咲く(編注:芍薬は、花屋で買ったものの花が開かないことも多い)」など、「大谷芍薬園」の芍薬のすごさを「F52」の今井夫妻からたくさんうかがっているのですが、その違いはどこから生まれていると思いますか。
大谷
特に変わったことはしてないんですけどね。野菜のように集約的な栽培(編注:温室なども含め、資本や労働力を投入して、より多くの収穫を上げる手法)ではなく、粗放栽培(土地の環境を生かしてあまり手をかけずに栽培する手法)なのがプラスになっているのかもしれません。
温室育ちとよくいいますけど、ハウス栽培された植物は、温度差は少ないし、強い雨風にさらされることもありません。一方、粗放栽培だと、過酷だけど雑草のようにたくましくなる。ほうれん草なんかでも、露地栽培のものは、凍結せずに冬を越すために糖分などをたくわえないといけないので、ハウスのものよりも栄養分や味や香りが強く出るといわれています。
粗放栽培の芍薬でも、香りが強く出るなど、それと同じことが起こっているのではないでしょうか。うちの品種の「大谷桃」は、香料メーカーが商品化したいとアプローチしてきたこともありますよ。
──もっと保護されているイメージだったので、畑を見学させていただいて、自然のままに育てられていることに驚きました。花の咲く率についてはどうでしょう。
大谷
確かに、芍薬を花屋で買って、咲かないということは多いそうなのですが、それはたいていの場合、出荷する人が焦りすぎなんですね。1日でも早く出荷したくて、咲かないかもと思いながら、市場に出してしまっているのでしょう。
見極めは難しいですが、親父は、畑の中で2輪か3輪咲き始めたら、切れといっていましたね。まだなにも咲いていないのに、咲きそうだから切ってしまうと、咲かないということが起こる。
私たちは気分という言葉を使っていますけど、花が咲く気分になってから切るのが大切なんですね。
──花が咲く気分になってから、いい言葉ですね。
大谷
花の咲く気分というと、去年ちょっと困ったことがありました。芍薬は、咲く時期が早生(わせ)、中生(なかて)、晩生(おくて)の3種類あって、合わせて3週間がシーズンです(編注:早生が5月1週目、中生が5月2週目、晩生が5月3週目のように、約1週間ずれで連続する)。
芍薬の場合、だいたいどれかの旬が母の日に合わさるのですが、去年は暖かくて時期が早まり、母の日にはシーズンが終わってしまうかもという状況でした。花の気分が母の日と合わなかったので、どうしようもありません。
宅配などで注文いただいた方には、「母の日ギフトが1週間早まるかもしれない」とアナウンスしたのですが、みなさんそれでもいいと了承してくれました。母の日に合わせられなくても、うちの芍薬を贈りたいと思っていただけることは、本当に嬉しいですね。
大谷光昭(おおたに・みつあき)
1940年生まれ。1963年、国立東京教育大学農学部農学科卒業後、神奈川県農業試験場(旧・農事試験場、現・農業総合研究所)に勤務。神奈川県庁農政部への複数回の異動を経て、2001年、農業総合研究所退職。「大谷芍薬園」を継ぎ、現在に至る。
http://otani-farm.net/
「大谷芍薬園」の芍薬は、広尾「F52」にて今年は5月2日(金)より購入できます(場所は下記を参照)。また、「大谷芍薬園」のウェブから宅配での購入も可能です(15本4000円~)。芍薬のシーズンは3週間。今年から初夏は芍薬を楽しんでみてはいかがでしょうか。
■広尾「F52」
渋谷区広尾5-17-3 広尾aroboテラス前(日比谷線広尾駅徒歩3分)
営業時間:11時~20時
TEL:03-5534-2713
鈴木 収春